東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)197号 判決
事実及び理由
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
原告は、請求の原因四、1、2掲記の理由により、本願考案と引用例1記載のものとの相違点(C)、すなわち、本願考案においては、下刃台下面の案内梁上面摺動係合面への係合を、特に他部材を介さず直接行うようにして、下刃台を移動させるためのねじ棒も横長中空箱である下刃台に設けるようにし、回転下刃の軸、同下刃を回転駆動する共通駆動軸及び前記ねじ棒の下刃台への配置をそれぞれそのシート寄り端部、中央部及び他側端部に行うようにした構成であるのに対し、引用例1記載のものは右のような構成ではない点に関する審決の判断は誤りである旨主張するので、右主張の当否について検討する。
1 引用例1に審決認定のとおりのサイドトリーマ兼スプリツタ装置が記載されていることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と成立に争いのない甲第五号証(引用例1)によれば、引用例1記載のものにおいて、下部のハウジング12は、その一端側を軸受20を介して駆動軸7に揺動自在に嵌装(枢着)し、他端側に軸受1及び9を介して下方のカツタ3を取り付けたアーバ2を挿着しており、駆動軸7の回転は歯車6、5を介してアーバ2に伝達され、カツタ3を回転するものであること、ハウジング12の両側には、軸受取付金物8を介してハウジング12と接続されている軸受箱13が駆動軸7に嵌装されており、軸受箱13は支持台14が取り付けられていること、支持台14の下端の前部及び後部は横方向案内梁上面の摺動係合面に係合し、支持台14の内部にはスクリユーシヤフト15が螺合し、支持台14は案内梁上を移動するようになつていること、支持台14の下端の前部にはカツタラツプ調整装置17の下端が、後部にはカツタ圧下装置16の下端がそれぞれ取り付けられ、これらの上端はハウジング12の前記他端側及び一端側にそれぞれ連結されていること、右のような構成であるために、スクリユーシヤフト15の回転により支持台14が案内梁上面を移動し、支持台14の移動に従つてハウジング12もこれと一体となつて駆動軸7を案内として移動すること、また、カツタ圧下装置16は、ハウジング12を介し、カツタ3をストリツプ4のせん断のために上下させるものであることが認められる。なお、右カツタ3、スクリユーシヤフト15が本願考案における刃、ねじ棒に相当することは明らかである。
右認定のとおり、引用例1記載のものにおけるハウジング12は、支持台14を介してではあるが移動するものであるから、引用例1にはハウジング12を移動させるという技術的思想が開示されていることは明らかである。
ところで、引用例1記載のものは、カツタ3を上下させるものであるため、それを取り付けたハウジング12は揺動するように駆動軸7に嵌装(枢着)されており、そのためにハウジング12を案内梁上面の摺動係合面に直接係合させるものとすることができず(ハウジング12を案内梁上面の摺動係合面に直接係合させようとすると、ハウジング12の揺動が不可能となる。)、ハウジング12は揺動しない支持台14に接続され、支持台14の下端の前部及び後部が案内梁上面の摺動係合面に係合するという構成となつているのであるが、右構成からいつて、支持台14はハウジング12が案内梁上面に対して係合関係(この関係は支持体14を媒体とする点から、ハウジング12と案内梁との間接的な係合関係ということができる。)を保ちながら摺動的動作をすることを意図して設けられたものといつてよく、引用例1にはハウジング12を案内梁上面の摺動係合面に直接係合させてもよい旨の記載はないが(この点は当事者間に争いがない。)、ハウジング12を案内梁上面で摺動させるためにその摺動係合面へ直接係合させようとする着想は示唆されているものと認めるのが相当である。そして、二部材間の摺動を他部材を介さず直接的に行うことが最も簡単な方法であることは技術常識に属する事項である。
以上によれば、本願考案のように、回転下刃がシートに接近した定位置にあつて、上下させるものでなく、それを取り付けている下刃台を揺動させる必要のないものについては、下刃台に案内梁上面との直接摺動係合部を設けることは何ら考案力を要しないものと認めるのが相当であつて、審決が、本願考案におけるように「下刃台下面の案内梁上面摺動係合面への係合を他部材を介さず直接行うようにすることは、引用例1の考案が存在する以上普通に思い付き得る程度のこと」であるとした判断に誤りはないものというべきである。
次に、引用例1記載のものにおいては、ハウジング12は揺動し、その位置が固定しないものであるから、ハウジング12を移動させるスクリユーシヤフト15をハウジング12の内部に設けないで、ハウジング12と一体関係になつて移動はするが、揺動しない支持台14に設けることは技術的に当然のことであると考えられる。したがつて、本願考案におけるように下刃台が揺動しないものにおいては、それを移動させるためのねじ棒を下刃台(中空箱)に設けることは、ねじ棒による移動機構それ自体の原理からみて当然の技術的手段であるというべく、引用例1にはハウジング12にスクリユーシヤフト15を通してもよい旨の記載はない(この点は当事者間に争いがない。)けれども、「下刃台を移動させるためのねじ棒をその移動部材である下刃台すなわち中空箱に設けるようにすることも、ねじ棒による移動機構それ自体の原理からみて当然の設計である。」とした審決の判断に誤りはない。
そして、本願考案において、共通駆動軸によつて回転駆動される回転下刃が下刃台(中空箱)のシート寄り端部に軸支されている関係上、下刃の軸に隣接する箇所として中空箱の中央部に共通駆動軸を通したものであり、また、ねじ棒を箱の他側端部に通す構成としたのは、共通駆動軸及び下刃を右のような配置としたために、共通駆動軸及び下刃を配置した以外のその余の箇所に配置したという程度にすぎないものと認めるのが相当であるから、共通駆動軸及びねじ棒の配置につき、「いずれもこれらを中空箱に配置する際採り得る常識的な設計の域を出ないから、これらの点にも格別の工夫はみられない。」とした審決の判断に誤りはない。
原告は、引用例1記載のものでは、カツタ3を一端部に軸支したハウジング12はカツタ3を上下させるために揺動するので、ハウジング12の下面を案内梁上面の摺動係合面に直接係合させることができないばかりか、ハウジング12にスクリユーシヤフト15を通すこともできず、そのために上面の軸受20によつてハウジング12を駆動軸7に枢着した支持台14を案内梁上面に係合させており、また、スクリユーシヤフト15を支持台14に通しているのであるから、下刃台下面が案内梁上面の摺動係合面に係合するようにし、下刃台を移動させるためのねじ棒を中空箱の他側端部に通すようにした本願考案の構成は、引用例1の記載からきわめて容易に考案することができたものということはできない旨主張する。
しかしながら、引用例1記載のものにおける右構成は、カツタ3を上下させるためにハウジング12が揺動するものであるゆえに考え出された独自の工夫によるものであると認められ、本願考案のように下刃台を揺動させないものにおいては、右のような独自の工夫によつてもたらされた構成を採ることなく、下刃台と案内梁上面の摺動係合面とを直接係合させるようにしたり、ねじ棒を下刃台に通すようにすることは格別の考案力を要するものとはいえず、したがつて、本願考案の右構成が引用例1記載のものにおける前記構成に対して進歩性を有するものとはいえないのであつて、原告の主張は理由がない。
2 次に、成立に争いのない甲第二、第七号証によれば、本願明細書の考案の詳細な説明には、「この考案は下刃ホルダーである刃台に、さらに角ネジ棒と下刃回転駆動軸とを貫通させ、多数の下刃を同一駆動源により回転駆動し、各刃台を同一駆動源により簡単なクラツチハンドルの抜き差しだけで各個に移動位置決めできるようにした。特に多数の下刃を並べる場合、各刃台に回転用、移動用モータを付ける必要がない事は、設備費、保守費の軽減のみならず刃台の軽量化、小容積化をもたらす。これは特に空間的余裕のないシート巻取機中にスリツターを組入れる場合、極めて有効である。」(実用新案登録願書添付の明細書第六頁第七行ないし第一六行、昭和五六年三月一三日付け手続補正書第二頁第一二、第一三行)と記載されていることが認められるところ、原告は、本願考案においては横長中空箱の下面が案内梁上面の摺動係合面に係合し、中空箱のシート寄り端部に回転下刃を軸支し、箱の中央部に各下刃を回転駆動する共通駆動軸を通し、箱の他側端部に各下刃台を移動させる共通ねじ棒を通す構成としたことにより、引用例1記載のものにおける軸受20や支持台14を用いず、下刃台を軽量化、小容積化し、空間的余裕のないシート巻取機中に組み入れるのに極めて有効なものとしたのであつて、その作用効果は引用例1記載のものによつては達成できない格別のものである旨主張する。
しかしながら、本願考案においては、下刃台と案内梁上面の摺動係合面との間に、引用例1記載のものにおける支持台14のようなものを介在させる必要はなく、また、ねじ棒を下刃台(中空箱)に設けることが当然の技術的手段なのであるから、右構成を採用することによつてその分だけ軽量化、小容積化されることは当然のことであり、前記説示のとおり右構成自体きわめて容易に想到し得るものである以上、右作用効果も当然予測し得る程度のものであるといつてよく、右作用効果をもつて格別のものとすることはできない。
なお、前掲甲第二、第五、第七号証によれば、本願考案においては、引用例1記載のものの支持台14が個々のスクリユーシヤフト15によつて移動させられるのとは異なつて、下刃台を移動させるためのねじ棒を共通ねじ棒としており、このことも軽量化、小容積化をもたらす一要因となつているものと認められる。しかしながら、成立に争いのない甲第六号証(引用例2)によれば、引用例2には、「複数のクラツチボツクス1にこれを移動させるための送りねじ2を通し、クラツチボツクス1内で送りねじ2に螺合したままこれと一体的に回転するナツト部材8を、フランジ15と係合させてクラツチボツクス1に固定することにより、各クラツチボツクス1に取り付けた物品をクラツチボツクス1を介して移動できるようにした、スリツター作業の刃物位置合わせなどに用いることのできる複数の物品を任意位置へ送る装置。」が記載されていることが認められ(この点は、原告も認めて争わないところである。)、下刃台を移動させるためのねじ棒として共通ねじ棒を用いるようにすることは、引用例2の右記載から容易に想到し得る程度のことであり、また、その作用効果も当然予測し得る程度のことと認めるのが相当である。
したがつて、原告の前記主張は理由がない。
以上のとおりであつて、原告主張の審決の取消事由は理由がなく、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。
走行シートをはさんで、シートに接近離反できる従動回転上刃と、シートに近接した定位置の回転下刃とを複数対、横方向可動に設けたスリツターにおいて、
上記下刃を付けた下刃台は、横方向案内梁に直角方向を長手とする横長中空箱で、下面が案内梁上面の摺動係合面に係合し、
上記中空箱のシート寄り端部に箱の側面へ出た回転下刃を交換容易に軸支し、箱の中央部に各下刃を回転駆動する共通駆動軸を通し、箱の他側端部に各下刃台を移動させる共通ネジ棒を通し、
各下刃は箱内の歯車により上記共通駆動軸の駆動を受け、各下刃台は箱内で上記共通ネジ棒に螺合したまゝ自由回転するメネジをクラツチにより箱体に固定する事により移動させられるようにした事を特徴とするスリツター刃台。
(別紙図面(一)参照)
〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。
別紙図面(一)
<省略>
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別紙図面(二)
<省略>
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